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大阪家庭裁判所 昭和51年(家)3420号 審判 1977年3月31日

国籍 米国ニューヨーク州

住所 大阪市

申立人 アン・エリザベス・アチソン(仮名)

主文

申立人の名アン・エリザベスをエリザ(Eliza)に変更することを許可する。

理由

一  申立の実情

申立人はアン・エリザベスと命名されたが、出生以来今日までエリザとしか呼ばれたことがないものであるところ、来日してからは、パスポート・外人登録証等の関係で、公的な面ではアン・エリザベスしか認められず、しかも、アンと省略されて使われているので不便でもあり、また、日本に長期間滞在するつもりであるので、通称と一致した名に変更したいと考え、本件申立に及んだ。

二  当裁判所の判断

1  申立人提出の各資料ならびに申立人に対する審問の結果によると、次の事実が認められる。

申立人は一九五一年四月六日、アメリカ合衆国ニュー・ヨーク州で出生したが、高校生であつた一九六七年から一九六八年にかけて交換留学生として来日し、その後帰米して同国で大学教育を受けた後、一九七三年(昭和四八年)六月一七日、再来日した。そして、同年八月一五日には肩書住所地に居を定め、以来今日まで、大阪市内で英語教師などをしているが、日本人男性との結婚も予定されていて、当分帰米することはなく、また、日本に永住したいと考えている。

ところで、申立人は出生時アン・エリザベスと命名されたものの、出生以来今日まで、エリザという名を通称として用いて来たが、パスポート・外国人登録等公的な面では、アン・エリザベスを用いる外なく、しかも、時にはエリザベスが省略されて、アンとのみ称されることもあるため、至つて不便に感じており、可能ならば、パスポート・外国人登録等の申立人の名についても通称であるエリザに一致させたいと考えている。

2  上記事実が認められるところ、本件のように、人格権の一種ともいうべき氏名権の行使に関するものについて、申立人の本国にのみ裁判権が存するとすべきではなく、申立人の本国法によつても名の変更が許され、その登録がされ得る場合で、かつ、申立人が日本に住所を有する限り、日本に国際裁判管轄権があるというべきであり、また、準拠法の決定については、日本法例中に直接準拠規定となるものは見当らないが、氏名の変更は公簿に登録されることによつて、公的な法律関係が形成され、公的な政策と密接な関連をもつことになることを考慮すると、条理上、当事者の本国法によつて規律されるべきであると考えられる。そうすると、申立人は上記認定の事実によれば、アメリカ合衆国の国籍を有し、かつ、ニュー・ヨーク州に本源住所を有していることが明らかであるので、法例二七条三項によつて、アメリカ合衆国ニュー・ヨーク州の法律が準拠法となるというべきところ、同州の制定法によれば、申立を受けた裁判所は宣誓供述書によつて、氏名の変更の申立が真実であること、および、その氏名の変更に対して何ら合理的な異議も存しないとの確信を得た場合には氏名の変更を命令することができるとされている。

そこで、本件をみるに、申立人の父母の宣誓供述書によつて、申立人の本件申立および申立の理由は真実であることが認められ、また、申立人の名の変更に対して、何らの異議も存しないことが認められ、本件名の変更の申立を排斥する理由もないというべきであるので、本件名の変更はこれを許可することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 佐野久美子)

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